木の断熱性能

Thermal Insulation

 

丸太小屋の断熱性能を考えてみましょう。

断熱性能は,熱伝導率で評価します。壁や屋根の熱伝導率が大きいと,熱が伝わりやすいので,室温がすぐに外気温に近づきます。逆に,熱伝導率が低ければ,室温は外気温の影響を受けにくい。

スギなどの針葉樹木材の熱伝導率は0.12W/m・K,コンクリートでは1.6W/m・Kなので,無垢の木材壁はコンクリート壁の約1/10の熱伝導率です[20]。無垢の木の家である丸太小屋は,じつは優れた断熱の家なのです。住宅断熱材として一般的なグラスウールでは0.038W/m・Kであり,杉材の約1/3。

 

厚さL,面積Aの壁をt秒間に通過する熱量Qは

 

(λ:熱伝導率,θ1,2:壁の内外温度)

 

なので[19],たとえば熱伝導率が1/3ならば,壁厚1/3でも通過する熱量は同じになります。つまり,平均壁厚300mmの杉丸太壁と,厚さ100mmのグラスウールは,ほぼ同等の断熱性能ということです。

 

朝倉(2013)を簡略化。W: 仕事率(J/s),m: 長さ,K: 絶対温度。

 

拙宅では妻壁と天井裏に100mm厚グラスウールを入れてありますが,300mmの丸太壁と同等の断熱性能を達成しているはずです。逆に言えば,これ以上厚い断熱材を入れてもオーバースペックであり,無意味な投資ということになります。

 

天井裏と妻壁に100mm厚グラスウールをびっしりと貼り込んだところ。

 

熱伝導率0.038W/m・Kのグラスウールです。湿気遮断のビニール袋に入っています。

 

また,床下に入れたスタイロフォームの熱伝導率は0.028W/m・Kなので杉材の4.3倍の断熱性能,したがって床板の厚さ27mmを差し引いてスタイロ60mmの厚さがあれば300mm丸太壁と同等性能が達せられることになります。拙宅では50mm厚なので若干薄いけど。

 

 

なお,レンガや土壁は0.6~0.7W/m・Kなので,断熱性能は木材に負けています。土蔵は涼しそうな気がしますが,壁が厚ければともかく,そうでなければ丸太小屋の方が断熱性能は高い。

松江の拙宅は,コンクリートプレハブ住宅でしたが,夏暑くて冬寒い家でした。コンクリート壁の裏にウレタンフォームを吹きつけて「断熱」を謳っていたのですが,ウレタンの厚さが薄かったらしい。

 

ウレタン吹付前のコンクリートパネル。コンクリートは,上の表のように熱伝導率が高くて無垢杉材の1/13の断熱性能しかなく,厚さも50mmくらいしかありませんので,このコンクリートパネルに断熱は期待できず,吹付けウレタンに頼るしかない。ウレタンで100mm厚グラスウールと同等の断熱性能を達成しようとするなら,75mm厚に吹き付ける必要があるはずですが… 

 

どうみても30~40mm厚くらいしか吹き付けていないようです。

 

とくに拙宅の場合はコンクリートパネルそのままの陸屋根(水平の屋根)にしたので,屋根勾配がないため屋根裏通気の自然対流が起きません。屋根裏通気層は最初から考慮していない設計でした。そのため真夏の太陽で60℃以上に熱せられた屋根の熱がそのまま室内に伝わります。いかに断熱材を入れても,通気層がなければほとんど無力に等しく,真夏の2Fの暑さは耐えがたかった。エアコンをムダに回さなければ住めません。これから家を建てようという人は,この形の屋根だけは避けるべきです。