Wood Burning Stove

薪ストーブ

 

安曇野は寒冷地ですが,暖房は薪ストーブ1台,と最初から決めていました。

 

建築面積77㎡(うち5㎡は玄関風除室なので実質暖房面積72㎡ = 22坪),2Fはロフトだけで部屋がなく,半分は吹抜けなので,1台で間に合うだろうという予想です。

 

「1台じゃ無理だよ」という人もいましたが,結論から言うと薪ストーブ1台(12,000kcalクラス)で十分でした。外気が-8℃でも屋内は20℃で快適です。

 

なお,丸太は断熱だけでなく蓄熱体でもあり,ストーブに火を入れても最初はちっとも暖かくならず(熱がログ壁を暖めることに消費されるらしい),一度暖まるとこんどは冷めにくい。いつまでも温い家です。

 

間取がストーブの煙突を背面出しにして寝室を通す設計なので,それに合う機種を選ばねばなりませんが,「背面出し可」のストーブは機種の選択肢が限られてきます。

 



選んだのはこれ。ホンマ製作所のLS-750です(製造は中国)。設計と品質管理はホンマが行なっているようで,しっかりした造りです。鋼板製でシンプルそのもののデザインですが,前面ガラスの大きいところが気に入りました。炎がよく見えることでしょう。

 

煙突もホンマ製作所の二重断熱溶接煙突で,こちらは日本製らしい。後述するように,断熱煙突は薪ストーブには必須で,お金も全予算の7割近くが煙突にかかっています。ストーブ本体より煙突の方が高い。

 

ストーブ本体に舶来の高級ストーブを入れ,煙突はオール二重にすると,設置工事費も含めて総予算100万円が薪ストーブの一般的な金額らしい。軽自動車1台分です。よほどのこだわりがないと買えませんね。ホンマのストーブなら,デザインは素っ気ないけど,これより低予算で導入できます。

 

(ホンマ製作所Webカタログより)

 

ホンマLS-750は,クリーンバーン方式という排気浄化のタイプで,機構もシンプル,調節できるのは一次空気だけです。Webから拝借した図のように,ストーブ前面下部から取り入れた一次空気が両脇のパイプ状柱から一度ストーブ天板まで上がり,扉のガラスに沿って吹き下ろします。一方,二次空気の方は,ストーブ背面から燃焼室に直接吹き込む。カマドのような下部から取り込む空気はありません。

 

我が家では最初の「火入れ式」のとき,煙が煙突から抜けずに,煙突の継ぎ目やストーブの隙間などいたるところから噴き出て,火事のように部屋中煙だらけとなりました。

 

流体力学的に考えると,点火時のまだ煙道に冷たい空気が充満しているときには,煙突の中では上昇気流は発生していません。煙突内部の上方にある冷たい空気と,下方の熱い煙が煙突内で上下入れ替わるだけで,煙突内の重たく冷たい空気全体を外へ排出する流れは発生しない。煙突内での排気の上下交換は渦流になるので,それ自体が排気抵抗にもなります。

 

こうして抵抗を受けながらエッチラオッチラ上昇した熱い煙の塊が,煙突トップにたどりついたとき初めて,周囲の外気との温度差(密度差)で上昇気流(プルーム)となり,同時にこのとき煙突内の空気を吸い上げるドラフトが発生するわけです。

 

ようするになるべく熱いまま排煙を煙突トップへ送り出してやる方が,大気との温度差が大きく,したがって強いドラフトを得られるので,メーカーは,排煙が冷めないよう断熱二重煙突を推奨しているのですね。

 

板金を円筒形に丸めただけのシングル煙突にくらべて,二重煙突は円筒を二重にし,その間に断熱材を挟んでいるので,コスト高です。しかし排煙の高温を維持できます。

 

ただし,下から上まで全部二重断熱煙突にしてしまうと,排煙・燃焼効率は上がるだろうが,煙突の熱を暖房に利用することはできません。二重煙突の外側は手で触れるくらい低温だから,暖房効果はほとんどない。

 

排煙・燃焼効率に影響がない程度に,下の方1~2mはシングル煙突を採用して,煙突の熱も一部を暖房に利用する方がよいと思います。

 

わが家の薪ストーブは,ストーブ背面からシングル煙突を出し,炉壁を貫通して裏の寝室に抜け,そこで上に立ち上げて途中から断熱煙突に接続しています。寝室の暖房はこのシングル煙突だけなのですが,一部屋暖房するのに十分すぎるくらいの熱が得られます。

 

ちなみにシングル煙突の表面温度は200~250℃はあるので,手で触れたら大火傷,寝具が近いと発火の可能性もあるので,そのへんは注意と対策が必要です。

 



煙突背面出しストーブ。煙突が抜けている壁の向こう側は寝室(写真右)。炉台は1800x1200mmテラコッタ風タイル貼り。炉壁はまだ作っていません。これでは建築確認の完了検査が通らないのだが,ログ壁の温度は何度も測って,ストーブをガンガン焚いても40℃以上にはならないことを確かめています。

 

寝室との境界炉壁は,とりあえずレンガとケイカル板でふさいであります。煙突直近のレンガは80℃くらいになるので,ここの炉壁は完成すれば蓄熱体となるでしょう。寝室側の煙突は天井近くまでシングルです。じつは暑すぎるので,シングル部はあと1mくらい短くてもよかったと思います。

 

なお,背面出し煙突は,排煙に関してはひじょうに不利で,ストーブから出てすぐに水平煙道があるため,ドラフトが起きるまでは熱い煙はこの水平部分で滞留することになります。したがって,ふつうにマッチ1本+新聞紙で着火した場合には,火力が弱すぎて煙が逆流してきます。

 

解決法は,草焼バーナーなどを使って焚付けの細薪を一気に燃やし,ストーブ内部をできるだけ早く高温にして熱い空気を少しでも垂直煙道の方へ押し出してやることです。「バーナーを使うなど邪道」,「マッチ1本で火を付けろ」などと「薪ストーブ道」の精神論にこだわっても,煙の逆流を受けるだけですね。

 

それから,火入れ時のまだドラフトが弱いときに換気扇・レンジフードなどを回すのもダメ。家の内部が負圧になって煙が逆流し,火が消えてしまいます。

 

これらの注意点は点火時だけです。薪が燃え上がって煙突ドラフトが安定すれば,あとはふつうに定常燃焼してくれます。

 

ところでメーカーの図にある「二次空気」「二次燃焼」とは何でしょうか? そもそも燃焼というのは,ガスや炭素が酸素と結合する化学反応のことです。この反応が起こる必須の条件は,温度ですね。低温の場合は,燃焼ではなくてただの酸化。というより,燃焼と酸化は同じ反応であって,ただその反応速度が大きく違うだけです。

 

薪が燃えるときは,大気の酸素分圧だけでは足りないので,燃えきれなかった木の微粒子や不完全燃焼ガス(一酸化炭素)が出ます。これが「煙」の正体。そこでこの煙にもう一度空気を吹きつけると,二度目の燃焼を起こして燃え残りを燃やす。これが二次燃焼ですね。

 

二次燃焼がうまくいくと煙突からは煙がまったく出ずに,熱気がカゲロウのごとくゆらゆら登るだけとなります。

 

しかし先ほど燃焼には温度が必要だと述べたように,「煙」が低温の場合は二次燃焼が起こりません。高温の排煙が必要なわけで,薪ストーブメーカーの言う「ストーブ本体温度250℃以上」というのがその目安ということになります。本体温度というのは,ストーブ上部側面を外側で測った温度で,ストーブ内部はしたがってもっと高温です。

 

余談ながら,自動車の排ガス浄化も二次燃焼であり,自動車メーカーの技術者たちが一番苦労したのが,エンジン始動時のまだ暖機していない排ガスをいかに二次燃焼させるかということだったそうです。

 

薪ストーブの場合は,おそらく本体温度200℃以下では二次燃焼していないと思います。二次燃焼すると,炎が青白い鬼火状態になって炉内を踊るようになる。いわゆるオーロラ燃焼というやつです。200℃以下ではこの現象は見られません。

 

250℃燃焼時の炎。薪からは少し離れたところで炎が立上がり,青白い鬼火のように炉内を踊っています。こうなるためには大量の熾火が必要で,焚き始めてから30分位かかります。

 

湿った薪を使うと,水分の気化熱で温度が上がらないので二次燃焼が起こりにくくなり,ススやタール(つまり液体成分)が煙突内部に「結露」して,良いことは何もない。「乾燥薪を使え」と言われるゆえんです。