Wood type

樹種

 

戸隠丸太屋のHPには,「日本のログハウスは日本の丸太で作りたい」と書いてあります。

 

丸太小屋に使う丸太はできるだけ真っ直ぐなものが望ましいから,必然的に針葉樹ということになり,日本の場合その代表格は,スギとヒノキです。ヒノキはスギより高価で,総ヒノキの家は「桧御殿」などと呼ばれ,御大尽や成金に喜ばれるようですな。

 

わが丸太小屋は,スギで建てることにしました。

 

スギ丸太は,中心部分と外側とではっきりと色が違っています。中心の赤い部分を「赤身」,外側の白い部分を「白太(シラタ)」というそうです。赤身は,濡れ・カビ・虫に強く耐久性がありますが,シラタの方はそれに比べたら弱い。

 

こちらはヒノキ。拙宅より1ヶ月早く(株)まるたんぼうのログサイトで完成していました。赤身はなくて,木目が目立たず,フシも少なく,全体に白っぽくて,材の美しさという点ではスギに勝る。値崩れしたとはいえ,まだスギよりは高価です。

 

 

スギは,日本列島の下北半島から屋久島まで分布し(北海道・沖縄には分布せず),世界中探してもここにしか自生しない日本列島の固有種です。学名もCryptomeria japonica (スギ属スギ種)です。ジャポニカ(日本)。しかし極相の優占種にはならないようで,自然状態でスギだけの純林はないらしい。スギの極相林なんて見たことありません。お山の一本杉や屋久島の針広混交林がスギ本来の生態のようです[18]

 

今日,日本中どこへいっても見られるスギ純林はすべて植林で,そのほとんどは戦後すぐに植えられたもの。戦後の復興と高度成長を支えるはずでした。ところが輸入外材の方が安くて,日本の林業は成り立たなくなり,植林スギ林は更新されることなく放置されます。

 

日本列島がこれほどのスギ林に覆われたのは列島成立以来初めてのことであり,これらの放置スギ林から,日本人がかつて経験したことのなかった大量の花粉がまき散らされ,国民病ともいえるスギ花粉症の一因となったのでしょう。一貫性のない林業政策と,安ければ外国資源を買い漁り,国内産業の衰退など顧みない略奪的資本主義の犠牲が,スギ花粉症者というわけです。

 

本来スギは根の深い樹木ですが,植林スギは根が浅くて斜面災害の原因となります。上に上にと伸ばす促成栽培のような造林が良くないのでしょうか。

 

九州山地で1997年に台風の豪雨によって起こった斜面崩壊の現場。崩壊は植林のところで起こり,自然林である広葉樹林は,斜面勾配が同じであるにもかかわらず,崩壊していません。

 

植林のスギの根がいかに貧弱であるか,よくわかります。まるでモヤシみたい。

 

こちらは原生林のスギ。スギの南限である屋久島に自生する縄文杉です。1枚の写真には収まらないのでツギハギ写真となりました。どうみてもスギには見えませんが,これでもスギです。下半分の太い部分は,幹ではなくて根。7,000年の間に表土が流され,根がむき出しになった。これが,野生のスギの根です。いかに巨大な樹であるか,根元に小さく写っているザックとくらべてみてください。
 なお,このとき(1982年)はまだ縄文杉の根元は立入禁止ではなかったので,縄文杉とハグすることができました。屋久島のスギは成長が遅く,年輪が密でヤニに富んでいるため腐らない。豊臣秀吉の時代の切り株が腐らずに今でも残っているくらいです。屋久杉でログハウスを建てれば,防腐塗装が必要ない?

 

屋久杉の菓子皿です。キズ物で安かったので買ったが,正価だったら買えない金額でした。背後は丸太小屋のスギ。年輪幅が5倍くらい違います。

 

屋久杉の年輪幅は0.8mmくらい。10年で8mm,1000年でようやく直径1.6mです。

 

 

戦後70年,多くの植林スギは直径30cm以上になり,建材として今が一番オイシイときです。しかし日本の林業は壊滅状態に近く,いくら良い木があっても採算が合わないので山から切り出せない。2015年の産出量は,ピーク時1980年の2割にすぎず,価格もピーク時の25~30%です[9]

 

スギだけでなくヒノキの価格下落も顕著です。いくら売っても儲からないし搬出の費用もまかなえない。山林の維持ができない「底値の底」と言われる状況なのだそうです。

山には良い木が余っているのに,伐れば伐るほど損をする。これが貧困なる日本の林業政策の現状です。

もっとも最近は,中国の木材不足から中国人バイヤーが日本のスギを爆買いしているとか[10]。そのため日本の木材輸出は上昇傾向です。今や攻守逆転して,日本の資源が買い漁られ略奪される時代となりました。

ログハウスに関心のある人や建てようと考えている人にとっては,まだカナダあたりの外材の方が人気みたいですね。スギ丸太で建てるというと,意外な顔をされます。しかし,せっかく丸太建材として優れた樹種が日本に余っているのだから,使わぬ手はない。

 

スギは,弾力に富んだ強靱な材で,湿気に強く,鬼皮むきや加工も容易であるなど,ログハウスに向いた樹種です。欠点は,テーパー(根元と先端の直径差)が大きいことですが,元口・末口を交互に入れ替えて積んでいくことでカバーできます。それでも,曲がりや節・ダメージがなるべく少ない丸太の方が望ましいわけで,そういう丸太はなかなか手に入らず,発注から納入まで時間がかかります。