丸太小屋の耐震性 ― 補遺

 

農家に代表される日本の伝統構法は,筋交いを入れない典型的な柔構造です。しかも襖や障子が多くて壁がほとんどない。こういう家の耐震性はどうなのでしょうか?

 

この写真は,2000年10月6日,鳥取県西部地震のときの震度6+ 震源地付近の被災家屋です。本震の翌々日に撮影しました。

 

石垣の崩壊により基礎も壁もなくなった家が,傾きながらも持ちこたえていることがわかります。また,つっかえ棒で家を支えています。地震の前につっかえ棒をするわけがないので,これはもちろん,本震後の作業です。ということは,本震の後この家の人たちが,余震が続く中で生命の危険に怯えながら必死に作業した時間があり,その間,家は持ちこたえたということになります。

 

当時は建築について無知だったので気付きませんでしたが,あらためて写真を見ると,この家がどこにも筋交いのない伝統構法の古民家であることがわかります。家の壊れ方を見ると,一階の損傷は大きいが軸組の構造体だけは残っており,二階は,驚くべきことに窓ガラスすら割れていません。

 

つまりこれは,伝統構法による制振構造の家が,地震の揺れを一階部分で吸収・受け流して,倒壊をまぬがれたことをしめす実例であると言えるでしょう。

 

全壊でも半壊でも家が使えなくなることは同じですが,本震最初の一撃に家が持ちこたえるかどうかは,人的被害には決定的な差があります。不意打ちの一撃に家が耐えてくれれば,人が亡くなることはまずありません。

 

別の角度から見た被災家屋。石垣とともに基礎は崩壊し(というより石垣が基礎?),木の土台から上だけが残っています。家の下が一部空洞になるほどの石垣崩壊でしたが,家は持ちこたえました。木がいかに強い材料であるかがよくわかります。

 

こちらは震央から20km以上離れたところの全壊家屋です。おそらく平屋だったと思われますが,壁部分は壊滅し屋根だけ残りました。屋根は三角形なので強いんですね。ただし,仮に運良く梁の下敷きにならずに生存したとしても,中に閉じ込められて逃げることはできません。素手で屋根や妻壁をブチ破ることは不可能。その間に火が回ってきたら終わりです。この家では,不幸中の幸い犠牲者はありませんでした。

 

建築基準法では,家の構造は剛性を高めて固めることになっています。しかし日本の伝統的な構法では,筋交いがなく,柱と梁の木組みはホゾ穴を貫通させたり金物を使わないなどの「固めない」構造になっていて,それが意外なことに地震に強かったということを,鳥取県西部地震の被災例は示しています。丸太小屋もこれと似たところがあると思います。