Anti-weathering

丸太小屋の耐久性・耐候性

 

丸太小屋は,何年くらい持つのでしょうか?

 

日本最古の丸太組構法建築物は,東大寺正倉院。約1,300年前です。丸ログではなくて断面三角形(正確には五角形)の角ログ校倉造りですが,ともかく1,000年以上の耐久性があるということです。

 

The oldest log cabin, Shosoin, Japan. This was built ca.1300 years ago.
最古のログハウス,正倉院(宮内庁HPより引用: http://shosoin.kunaicho.go.jp/ja-JP/Home/About/History)

 

 

ただしこれには,「濡れない」という条件があります。正倉院のデザインは,高床と深い軒が特徴です。雨や湿気を遠ざけている。木材は,雨や露で濡れたら数年で腐って消えてしまいます。ログハウスに限らず,木造建築物を長持ちさせようと思ったら,濡らさないことが必須です。

 

木材が腐るとは,どういうことでしょうか?

植物体は,セルロースとリグニンから成っています。セルロースは多糖類であり,分解されやすくて動物や細菌の餌になりますが,リグニンは芳香族炭化水素の高分子化合物で,堅い木質部を構成する安定な物質です。古生代シルル紀にリグニン生成能力を獲得したために植物は直立できるようになり,デボン紀には高木が出現します。

 

草本でもイネ科植物はリグニンが多いらしいが,なんといっても樹木こそはリグニンの塊であって,広葉樹より針葉樹の方が含有量は多いそうです[17]

 

リグニン獲得以前の陸上植物ヒカゲノカズラ。デボン紀の生きている化石ですが,山に行けばどこでも見ることができます。「ヒカゲノカズラ門」とされるほど近縁種の少ない孤立した植物です。(門は,植物「界」の下に位置する大区分であり,したがってほかに仲間がいないということ。)

 

'ama'u or ma'uma'u in the Kirauea caldera, Hawaii. Devonian forest!
最初にリグニンを獲得した植物の生きている化石?木生シダ。ハワイのアマウです。人間の身長くらいの「幹」を持ちます。デボン紀の森,かくありきや。

 

リグニンを分解できる生物は,白色腐朽菌とよばれるキノコだけです[16]。カビや細菌にはリグニンを分解する機能はありません。動物にもリグニンを消化できる種はいません。つまり木材腐朽の敵はキノコだけ,ということです。

よく知られたシイタケなどは白色腐朽菌そのものであり,栽培すればわかりますが,ナラのホダ木をフカフカに分解してしまいます。目に見えるキノコは,胞子をまき散らす子実体であり,本体は材の内部にびっしりはびこる菌糸です。キノコが見えたときは,その材の内部はほぼ終わっている。

植物が太陽エネルギーによって無機物から作り出した有機物のうちでもっとも分解されにくい物質であるリグニンは,白色腐朽菌によって再び無機の世界に戻っていくわけです。この菌が存在しなければ,地球上は枯れ木で覆われ,炭素循環が止まってしまうでしょう。

その白色腐朽菌が生育できるのは高温・多湿の場合だけで,乾燥していたらダメ。だから湿気を遮断すれば,木材は何年でも持つわけです。

 

なお,シロアリは,リグニンではなくセルロースを食べているのですが,セルロースを食べるために木部を噛み砕いてしまうので,結果的に家がボロボロになることは同じです。そしてシロアリも高温・多湿を好むため,乾燥した木材には巣を作りません。

 

それからカビも木部を腐らせる能力はありませんが,汚ならしいうえに繁殖が早い。しかしこれも湿気がなければはびこることはありません。

 

したがって丸太小屋を建てるときは,正倉院とまではいかずとも,基礎を高くし,軒を深くすることが正しいデザインだ,ということになります。

 

拙宅の屋根と基礎。軒は1200mm,けらば1500mm壁芯から出ています。基礎のGL高は700mm。これだけあれば,丸太壁が雨に濡れることはまずありません。100棟建てた友田さんの経験による理想的プロポーションというわけです。代償として,屋根と基礎にお金がかかり,建蔽率でも損をするが,丸太壁を守るためなので仕方ない。