小屋組(続)― トラス

Roof System ― truss

 

以上は束立て小屋組の説明ですが,roof systemにはもう一つ,トラスという構法があります。

 

ネット解説では,小屋組には「和小屋」と「洋小屋」があって,和小屋が束立てで洋小屋がトラスという説明が散見されますが,本当でしょうか? A.Mackieの本にはトラス(truss)と束立て(post & purlin)の両方が詳細に解説してあるし,日本には飛騨の合掌造りという正真正銘の伝統建築があって,その小屋組はトラス構造です。つまり西洋にも束立てはあり,日本にもトラスはあるのです。

そもそもトラスとは何か?

これはシングルポスト・トラスと呼ばれる最もシンプルなトラス(truss)です。束立ての図と比べてみてください。小屋梁(トラスの場合は陸梁というらしい)と2本の登り梁がつくる二等辺三角形がトラスを構成しています。母屋には束がありません。棟木はキングポストと呼ばれる束で支えられているように見えますが,じつはこのキングポストはなくてもよい。少なくともトラスにかかる力を受け止める構造部材としては,役割を果たしていません。

 

昔勉強した構造工学の教科書によれば,トラスとは,三角形で構成される構造で,力は節点(三角形の頂点)のみを通して伝わります。辺に直交する力は曲げモーメントであり,トラスはそれに対して剛性を持ちません。茶色で示した二等辺三角形が小屋組トラスの基本形です。屋根の荷重を棟木にかかる下向き赤矢印で代表すると,トラス斜辺方向にベクトルが分力します。これは圧縮力です。そしてトラス底辺両端に引張の水平分力が働く。

King postがあるとどうなるか。このときking postには鉛直方向の力がかかるかもしれませんが,底辺には垂直に接するため,ここは剛性がありません。もし陸梁がKing postを支えているとしたら,そこには曲げモーメントが発生しており,全体としては純粋なトラスではなく混構造となるはずです。

ではなぜ,なくてもよいking postがあるのか。「その方がカッコよい」というデザイン上の理由と,「組立てがやりやすい」というビルダーにとっての実務的な理由というのが真相のようです。

トラスのメリットは,束柱がないので広いロフト空間が確保できることと,陸梁に細い材を使っても高い強度が保てることでしょう。木材は引張に強く曲げに弱いので,引張しか受けないトラスの陸梁には太い材が必要ないのです。デメリットは,作るのが面倒なこと。手間がかかるのでコスト高になります。

束立てのメリット・デメリットはこの逆です。とくにふつうの軸組構法の場合は,小屋梁の下には何もないので,1本で曲げモーメントに耐える太い材が必要です。丸太小屋の場合は小屋梁が丸太壁に乗っているので,強度的には細くても問題ないけど,束柱を立てる平面(ひらめん)を確保するためには,やはり太い丸太が必要です。

 

飛騨高山白川郷の合掌造り。日本のトラス屋根です。

 

合掌造りの内部(屋根裏)。束柱のない3層の広い屋根裏です。A字型の「カラータイ・トラス」にも見えますが,どうなんでしょうか。訪れた当時は知識がなかったので観察は不十分。屋根裏は使用人の住居兼作業場だったそうです。広い作業空間を確保するため,束立てではなくトラス構造にしたのでしょう。チョウナの痕が残る「名栗仕上げ」のような陸梁と登り梁が見事です。これらの梁と垂木は,釘を使わず丸太を組んで縄で縛っただけ。これが巨大な屋根(冬は雪の重さも加わる)を支える純和風のトラスです。

 

こちらは私の実家近く,東京都檜原村に残る築200年の兜造り民家。入母屋造りの屋根手前をカットした形が兜に似ていることから,こう呼ばれています。これも束柱のないトラス屋根だそうです。飛騨の合掌造りと同様,柱のない広い屋根裏はかつて養蚕の作業場だったとか。