屋根の仕上げ
Roofing with Galvalume
ログハウスにとっては,雨と風が一緒に来る暴風雨が最大の敵です。最大級の台風ならば雨が横から吹きつけるので,軒がどんなに深くてもログウォールが濡れるのは避けられない。
幸いなことに拙宅はアカマツ林の中に建っており,これが防風林の役目を果たしています。安曇野は,大部分が田畑であって木がないので,台風のときには猛烈な風に見舞われます。大きな農家は家の周りに屋敷林を植えて風を防いでいるくらいです[15]。その点で拙宅は自然の防風林の中にあるため,ログウォールが濡れたことはまだありません。
屋根の仕上げは,屋根の骨格である小屋組の上に屋根葺きをして完成します。
屋根葺きには,瓦・スレート・鋼板・シーダーシェイクなどいろいろありますが,コストパフォーマンスが良くて耐久性があり雨漏りに強いのは,ガルバリウム鋼板です。鋼板に亜鉛・アルミニウム合金メッキを施し,ペイント塗装したもの。亜鉛だけのメッキはトタン板ですが,アルミを混ぜることで防錆性能が飛躍的に高まりました。
拙宅屋根葺きの図。垂木の上に12mm厚野地板合板を貼ります。軒側は天井を貼らず垂木と野地板がムキ出しになるので,野地板には相決り(あいじゃくり)杉板を横方向に貼る。「垂木現わし」という構法で,構造材を見せるやり方です。私は構造が好きなのでカッコいいと思いますが,防火地域では許可にならないでしょう。このままでは軒と室内天井裏が筒抜けなので,室内側と軒の境の垂木間に面戸板という2x材を入れて,そこに屋根裏換気の通気孔を開けておきます。野地板の上には防水のためのアスファルトシートを貼り,そこにガルバリウム鋼板を葺きます。アスファルトシートとは,紙(不織布?)にアスファルトを浸み込ませたシートで,釘やタッカーを野地板に打ってもその周りに浸潤して密着し,雨水の浸入を防ぎます。
垂木の端を切りそろえて2x4材の広小舞をまわします。屋根の端が波打ったりしないように抑える役目をするのが広小舞。
ケラバ側は「登淀(のぼりよど)」というそうです。これらで囲まれた枠の内側に野地板を貼ります。軒側は,軒天井を貼らないので野地板が下から見える。それがコンパネ合板ではちょっと悲しいので,杉の合決り(あいじゃくり)板を野地板にします。
下から見るとこんな具合。
室内部分は天井を貼るため野地板は見えないので,安くて丈夫で作業性も良いコンパネ合板を貼ります。写真で白っぽくのっぺりした部分が合板,周囲軒の部分が杉材の野地板です。合板部分が実質的な建物部分なので,こうしてみると,あらためて「軒が深いな~」と思います。
ケラバ側には,垂木より幅の広い2x10材を打ち付けます。破風(はふ)板です。破風とは風雨が屋根裏に侵入するのを防ぐという意味だそうです。ここは雨でびしょ濡れになりますが,晴れればすぐ乾くので,防腐剤注入ではないふつうの2x10材で問題ない(らしい)。軒天井を貼る場合は,垂木の先端にも破風と同じ幅の板をまわすのですが(鼻隠しという),拙宅の軒は垂木現わしなので鼻隠しは省略しました。
内側から見た垂木と野地板。穴が開いているのが面戸板です。この穴は,屋根裏換気のための通気孔で,コウモリや鳥が屋根裏に入らぬようステンレス網が張ってあります。垂木のスパンは450mmであり,垂木は2x8材なので幅184mm。ここに厚さ100mmのグラスウールを押し込むと,上には84mmの空間が残ります。これが通気層となる。
こんな具合になります。防湿ビニール袋入のグラスウールは,天井板とは密着するが,野地板との間には通気層となる隙間が設けられているのがわかります。
棟の方は,野地板に棟換気の隙間が開いています。面戸板の通気孔から入った空気は,屋根裏を通ってこの隙間から外へ排気されます。屋根上には棟役物と呼ばれる換気口付の屋根部材が渡されます。棟役物は,上からの雨だけでなく,屋根面を吹き上げてくる「下からの雨」も遮断するようになっているので,ここから雨が漏ることはありません。
屋根裏換気の効果は絶大で,これがなかったら夏のロフトは灼熱地獄となります。冬も通気層の空気が流れることによって,屋根裏の結露を避けることができます。ただ,結露は,ほんのわずかのことでも簡単に起こりうるので,侮れません。
野地板の上にはアスファルトシートをタッカー止めします。タッカーというのはホチキスのでかいやつで,板金屋さんは屋根の上を走り回りながらパンパンと打っていきます。まるで曲芸師。
最後にガルバリウム鋼板で葺いて完成です。
屋根葺きの工事は,友田さんの昔からの馴染みで屋根専門の松井さんです。ガルバリウム鋼板屋根にも,縦(雨の流れる方向)に桟があるものや瓦状の外見のものなどいろいろありますが,拙宅の場合は横一文字という葺き方。横方向に長尺の鋼板を貼っていきます。ふつうは長さ3mくらいの定尺工場製品を使うが,拙宅では屋根全長で1枚の板金を使っています。トラックでも運べない長さですが,板金加工の機械を積んだトラックで乗りつけ,この上で現場加工していました。
板金のロールが並んでいます。これをローラー式の機械に通すと,反対側からハゼ折り加工(板金同士が噛み合う折り曲げ加工)されて出てきます。
屋根の長さ12m(最長14m)の加工された板金を受け取って…
地面に並べ…
数枚ずつまとめてクレーンで屋根に上げます。定尺もののツギハギではなく,現場合わせで加工した屋根全長1枚の板金なので,雨が流れる縦方向の継ぎ目がありません。雨漏りの可能性を限りなく抑えることができる。この大屋根は7寸勾配なので,私など立っているのがやっとですが,職人さんたちはこの上を縦横に飛び回って作業していました。
屋根鋼板の端の部分は,唐草(からくさ)という部材を広小舞・登淀に止めて,屋根鋼板をカシメます。これが水切りになって,屋根裏への雨水の浸入を防ぐ。日本の伝統的瓦屋根では,軒先やケラバの瓦に唐草模様を付けたため,このような呼び名になっているそうです。鋼板屋根では何の模様もありませんが,職人さんたちは「唐草」と呼んでいます。