Notch&groove(2)
ノッチとグルーブ(2)
次に,丸太の交差部に丸太半分の切り欠き(ノッチ)を入れて重ねれば,隙間はほぼなくなります。
このとき一番簡単なのが,上に重ねる丸太の下半分を,下の丸太に合わせて丸く切り欠く方法で,ラウンドノッチと呼ばれています。
Round notch
この方法は,丸太の下半分だけを細工すればよいので,手間が少なくてすみます。しかしながら,ノッチの中で丸太の回転を許容するため,剪断抵抗が小さく,壁の剛性が低くなるのが欠点。
ノッチをV字型にしてやれば,丸太の回転を抑えることができて剛性は飛躍的に高まります。丸太の上半分もクサビ状に加工する手間がかかるが,手間以上のメリットがあるので,これがサドルノッチとばれる今日の丸太組構法の主流となっています。下半分もクサビ状に加工するウェッジノッチなど,いくつかのバリエーションも派生しています。
クサビ状のため,丸太が乾燥によって痩せることで起こるセトルダウンに対しても,サドルがノッチに食い込んで隙間が開かず,丸太同士が強固に噛み合います。重ねるだけで強い剛性を発揮し,クギやボルトは基本的に不要です。
Saddle notch
直交する丸太はこれで強く密着・結合するが,平行に重なる丸太はそうはいきません。
なぜなら丸太はまっすぐではなく,長軸方向に曲がったりねじれたりしているからで,したがって丸太壁には必ず隙間が生じることになります。だからこの隙間をふさぐ対策が必要です。
Gap between parallel logs (shown in gray)
たとえば,平行に重ねた2本の丸太にグレーで示したような隙間が空いたとしましょう。これをなくす一番簡単な方法は,この隙間に土やパテ,苔を詰めてしまうことで,チンキングと呼ばれています。
もう一つの方法は,下の丸太の上面に合わせて上の丸太を刻む方法で,これが今日のもっとも一般的な丸太組です。下の丸太が食い込むように,丸太長軸方向の溝(グルーブ)を上の丸太に刻むわけです。丸太の形状に合わせた丸底の溝が理想かもしれないが,チェンソーでの作業がしやすいようにV字型やW字型の溝にするのがふつうです。
Groove cut in order to close a gap (red line)
図のように,とりあえずノッチをラフカットした丸太を重ね,一番大きい隙間に合わせて下の丸太の上面を平行線で上の丸太に赤線のように写しとります。そしてそこまで溝を刻み,ノッチもそれに合わせて刻み増しをしたあと重ねれば,上下の丸太はぴったりと密着するはずです。
こうして,ラフカット→精密カットの2段階に分けて丸太を刻むことで,丸太の密着度を高めることができます。どちらのカットにも,下の丸太の形状を上の丸太に写しとる(scribe)道具が必須で,考案者の名をとってマッキー・スクライバーと呼ばれています。この道具のおかげで隙間のない丸太積みができるようになりました。
Mackie scriber
カナダ人アラン・マッキーが考案したマッキー・スクライバー。大型のコンパスに水準器を付けただけですが,鉛直方向に同一間隔のラインが描けます。
丸太が乾燥することで起こるセトリングによってグルーブの食い込みが高まるだけでなく,グルーブやノッチに断熱材を詰めることでより効果的に隙間風を防ぐ,などの工夫もされています。さすがに横から風圧を受ける台風の暴風雨まで防ぐのは難しいので,毎年台風に襲われる東海~四国~九州では,防水パッキンを挟む施工もされているようですが。
グルーブではなく,上下の丸太の接触部を平らにカットしたタイコ挽き丸太を重ねる方法もあって,「北の国から」の五郎の丸太小屋はそうなっていました。この場合,丸太同士食い込むことはないので,隙間をゼロにすることはできません。五郎さんは苔でチンキングしていました。
「北の国から」の丸太小屋。丸太は,廃電柱を使ったという設定でした。丸太の上下面が平面になっているタイコ挽きです。ノッチは,下の丸太の円柱にあわせて切り欠くラウンドノッチです。