丸太組構法・2x4構法・伝統構法・在来構法

Structure

 

 

丸太小屋(ログハウス)[注]は,法律(建築基準法)でも「丸太組構法」と呼ばれています。山から切り出した丸太を横積みにして壁を構築し,家にします。丸太ではなく製材した角材の場合は,マシンカットログハウスといいます。横積みにする点は共通しています。柱は建てません。典型的な壁構造の家です。


[注] 丸太小屋のことを英語ではlog cabinまたはlog home, log houseといいます。ネットには「ログハウス」は和製英語である旨の解説が散見されますが,そんなことはありません。カナダ人アラン・マッキーの著書「The Owner-Built Log House」にはタイトルにlog houseが入ってますよ。これに限らずネット情報には嘘や思い込みが多いので,要注意です。

 

近所にあるマシンカットログハウス。工場でプレカットした角ログ(というか角材)を横積みにしてあります。壁が薄く平面なので,ハンドカットログに比べて部屋が広くとれるメリットがあります。

 

直交する壁のログ交線がズレています。つまりノッチで組んであるわけです。

 

このお宅もマシンカットですが…

 

外側を丸く,室内側を平らに製材した半丸太を使用しています。丸太断面がD字型なので,Dログハウスと呼ばれています。外観は丸太造り,室内壁は平らで部屋が広く使える,といういいとこ取りの造りです。

 

こちらは拙宅の近所で売り出し中の中古丸太小屋。もしかするとOwner-builtかもしれない。空家で,残念ながらかなり傷んでいます。

 

間伐材のような細い丸太をタイコ挽きにして,ラウンドノッチで組んだものと思われます。ドラマ「北の国から」の丸太小屋と同じ構法。16段も積んであるので,私だったら途中で飽きてしまうと思います。

 

 

丸太組構法とそのバリエーションについては,III-3~5 「ノッチとグルーブ」のところで述べたので,ここではそれ以外の構法について簡単に説明します。

 

柱と梁を組み合わせて骨組みを作り,合板や土,漆喰で柱間の壁を埋めるのが軸組構法です。要するに大工さんの建てるふつうの家。柱と梁の継ぎ目(仕口)には,ホゾを組む大工さんの高度な技能が必要なので,シロウトが作るのは難しい。

軸組構法は,さらに伝統構法と在来工法に分けられています。伝統構法では仕口にクギやボルトを使わず,木組みだけで強度を保ち,さらに壁内にも筋交いは入れません。これで耐震強度はあるのか? ...ありませんね。そのかわり「制振」と呼ばれるこの剛性の低い構造で,揺れを逃がしてしまいます。結果的に家は全壊をまぬがれます。[II-2-1,II-2-2参照]

 

伝統構法の例。1995年に,古材を再利用して伝統構法で建てられた島根県六日市の水源会館。

 

水源会館内部。50cm角ケヤキの柱とツガの梁を,金物を使わずに木組みだけで組立てています。かなり大きな木造建築物ですが,筋交いも入れていません。


在来工法は,仕口に木組みだけでなくボルトや金具なども使い,壁内には筋交いを入れて剛性を高めます。剛構造の木造軸組住宅です。軸組在来工法で建築中の家を見ると,柱や梁は工場でプレカット,木組みの部分には金具・ボルトの補強をしており,現場で職人が腕をふるう余地はあまりないようにみえる。素人目にも「見習大工」くらいの技能でできそうな感じです。

2x4(ツーバイフォー)構法は,アメリカ生まれの構法で,シロウトの開拓農民でも建てれるキットハウスが原型とされているようです。日本に入ってきたのは1974年と新しく,あっという間に普及しました。ただし,キットを買って自作する日本人は,まずいないと思いますが。

私の先輩が75年ころに2x4の自宅を大手メーカーに注文して建てましたが,「釘打機で打ったクギが横に飛び出している。あんなので大丈夫なのだろうか」と心配していました。当時の大工さんは,釘打機を使うのも初めてだったのかもしれませんね。

ツーバイフォー住宅では,2インチx4インチ(実際は38x89mm)の角材を並べてそれに合板を貼り,壁にします。この壁を組み合わせて家にするので,これもログハウス同様に柱のない壁構造の家です。2x4住宅に柱があるとすれば,それは飾りです。法律では「木造枠組壁構法」と呼ばれるようです。

2x4構法の家を建てているところを見たことがありますか? 窓の穴が開いた壁をトラックで運び,現場で基礎の上にその壁を立てて,1日くらいで棟上げまでやってしまいます。壁の裏側は,私が子供のころにドブ川の橋の下で見たホームレスの「バラック」を連想する造りなので,どうしても気分的に抵抗がありますが…。 個人的偏見です。2x4住宅の仕上げは,壁内に断熱材も入れるし,外壁材には不燃物製のオシャレなサイディングを使うから,素敵で快適な家になることでしょう。

じつは我が丸太小屋も,妻壁と室内間仕切り壁の間柱は2x4です。この部分だけは2x4住宅と同じ。筋交いは入れてませんが…

 

拙宅の妻壁です。束柱の間に2x4材の間柱を立て,両側に板を打ち付けて壁にします。この壁の構法で家一軒建てるのが2x4住宅というわけです。

 

 

軸組構法の柱に角材ではなくて太い丸太を使った家を,ポスト&ビームと呼んでログハウスの仲間に入れるのが一般的ですが,構法としてはこれはあくまで軸組構法ですね。

 

ポスト&ビームの家。柱(post)と梁(beam)の軸組構法であることがわかります。柱にここまで太い丸太を使えば,「ログハウス」としても迫力満点です。(左:(株)まるたんぼうのHPから引用,右:東京の実家の近所に建築中のP&B住宅。)

 


ポスト&ビームの壁にはふつう板や漆喰を使いますが,ここに丸太を横積みにする場合があって,これはとくにピーセンピース(piece en pieceまたはpiece on piece)と呼ばれています。ログハウスの一種とされ,見かけもログハウスですが,構造としては柱を立てる軸組構法です。丸太壁自体は家を支えているわけではありません。長い丸太が不要なので,狭い土地や重機が使えない状況では選択肢に入るかもしれません。

 

拙宅の近所にあるピーセンピースのログハウス。玄関雨除けはノッチを組んでいますが,それ以外は柱を立てて間の壁は丸太横積みになっています。この家はたぶんowner-builtですね。いい感じにウェザリングしています。

 

 

軸組構法には,もうひとつ,筋交いの代わりに「方杖(ほうづえ)」を使う構法があります。ティンバーフレームと呼ばれています。柱と梁の交差部に短いつっかえ棒(方杖)を入れるもので,欧米で普及している構法です。柱も梁も,丸太ではなくて極太のオークなど広葉樹角材を使います。構造材がムキ出しなので,構造の好きな私にとっては魅力的な構法の一つです。

 

ティンバーフレームの建物。太い角材を使った柱と梁の交差部にある短い方杖が特徴です。壁を斜めに横切る筋交いはありません。また,材(timber)にはオークなどの堅い材木を使うそうです。じつに美しい構造だと思います。(ティンバーフレームメーカー「Hearth Stone」輸入代理店のHPから)。角材がむき出しで倉庫みたいだと嫌う人もいるかもしれませんが,私は好きな造りです。

 

 

木材をもっとも多く使用するのは,丸太組構法です。壁全部丸太だから。したがって,住宅設備や断熱材など他の部分のコストが同じなら,丸太小屋が一番コスト高となります。ウェスタンレッドシーダーなどの高価な丸太を使えば,それこそ5000万円とか1億円のログハウスができあがり,「開拓者」の家からはかけ離れたものとなります。

開拓者の丸太小屋が貧者の家とされたのは,材料をタダで現地調達し,労働力も自分と家族だけだったからであって,買えばそれなりに高価な家となるわけです。

ポスト&ビームは,柱と梁にしか丸太を使わないので,「ログハウス」と称する割には材料費が抑えられ,コスト/パフォーマンスの良い家が建つようです。ただしポスト&ビームの場合,あまり太い丸太を豪快に使うと,重量があるだけにジョイント部に無理がかかるような気もします。そのへんの構造計算と対策は抜かりないのでしょうね?

私が望むのは,豪邸のログハウスではなく,かといって貧者の家でもなく,開拓者魂の宿る慎ましく丁寧に造られた丸太小屋です。べつに豪邸を否定するわけじゃありませんが,丸太という木の素材を100%まるごと使うのだから,その素材感を引き立たせるシンプルな造りが私としては望ましい。

家というのは,豪邸でも質素な家でも,どんな構法で建てられたにせよ,職人さんが丁寧に造ったものは,合理的で美しいものです。そしてハンドカットの丸太小屋は,木をほとんど加工しない素材のまま使うので,職人さんの仕事がストレートに結果に出ると思います。